精索静脈瘤について

精索静脈瘤と
診断された患者様へ

精巣はもともとお腹の中にあるもので、大動脈から直接分岐した精巣動脈によって血流が供給され、精巣から心臓に戻ってくる血流は精巣静脈を通ってきます。精巣静脈には、血流の逆流を防ぐための弁が備わっていますが、この弁が何らかの原因で機能しなくなると、逆流が生じて精巣の静脈が蛇行・拡張し、瘤のような状態となるため、静脈の瘤(こぶ)と書いて、静脈瘤と言います。特に左の精巣からの静脈は左腎静脈に直角に合流するため、血管内の圧が上昇し、弁が壊れやすい構造になっています。ですので、静脈瘤の約80%が左のみに認めます。両側に認める割合は15%、右のみに認める場合は5%と言われています。稀に痛みを生じることがありますが、痛みがなく、不妊治療の原因とならなければそのままで、治療の必要はありません。なお、不妊治療をされている場合、第一子男性不妊症の35%~44%、第二子男性不妊症の45~81%を精索静脈瘤が占めていると言われています。

精子への影響

精巣内の温度が2~3度上昇する、精巣内の酸素が少なくなる、精巣内で活性酸素が増加することなどが原因となって、精子の数や運動率の低下、精子のDNA損傷率(DFI)が上昇すると考えられています。また、これらの影響で男性の不妊症につながると考えられます。

活性酸素

活性酸素とは、呼吸によって取り込まれた酸素の一部で、細胞の伝達や免疫機能として働くという効果があります。しかし、活性酸素が過剰に存在すると身体に悪影響を及ぼします。ヒトには活性酸素から身体を守る力も存在しますが、体内の活性酸素が過剰になるか、防御力が低下すると、体の細胞に悪影響が生じます。特に、精子D N Aは周囲に細胞質が存在しないため、影響を受けやすいことが知られています。

精索静脈瘤の症状

自覚症状は乏しいですが、症状が進行すると陰嚢が腫れる、でこぼこした感じが現れる、痛みが生じるといったことが起こる恐れがあります。
精索静脈瘤によって、下記のような影響が起こると考えられます。

など

精索静脈瘤の検査

臥位、立位の状態で精巣や精索を診察していきます。軽度(Grade1)の状態であれば立位や腹圧によって血管に拡張が生じる程度ですが、重度(Grade3)の状態では通常時に陰のうの皮膚から目で見て血管の拡張が分かる状態にまでなります。なお、超音波検査によって静脈の拡張度合いと血流の逆流を確認することも検査において大切なポイントとなります。

精索静脈瘤の治療の前に

精子が悪い原因は?

精子の数や運動率に悪い影響を与える原因は様々あります。例えば、加齢、飲酒、喫煙、肥満、ストレス、睡眠不足などが挙げられますが、これらの原因因子は活性酸素を介して精子のDNAにダメージを与えることで知られています。静脈瘤が片側にしかない方でも精液の所感が良くないこともありますが、多くの場合、活性酸酸素による悪影響が原因だと考えられます。

治療をすることで精子の状態は改善する?

治療の効果がわかるようになるには、約3カ月かかります。精子は精巣の中で74日間かけて作られ、14日間かけて射出さます。なお、治療をしたからといって必ずしも精子の状態が良くなるとは限らず、精子の濃度や運動率は様々な影響によって日々変動するものです。ただ一つ言えることは、精索静脈瘤は間違いなく精子にとって良いものではないため、妊娠が得られない状態であれば、取り除くべきものと考えられます。

精索静脈瘤の治療
(手術による治療)

手術による治療

当院では、顕微鏡下精索静脈瘤手術(低位結紮術)を行います。精巣に逆流する血液を1本ずつ分けて、結紮切離(しばって切ること)して、精巣において血液のスムーズな循環が行われるようになることで、精子の所見が改善します。約60~70%の方は3カ月~半年で精液所見が改善されるようになります。また、最新の研究によって、精子の数や運動量に変化はなくても、DNAにダメージを受けた精子の数が術後に少なくなるということが分かっています。

薬物療法

手術を行った後も抗酸化療法を行った方が良いとの報告があります。

抗酸化療法

抗酸化剤の薬物療法によって、約50%の方は精液の所見が改善されると言われています。具体的には、コエンザイムQ10やビタミンC・Eなどの抗酸化作用をもつ薬剤、サプリメントを服用することによって、精巣内の酸化ストレスを中和し、精液の所見を改善させることを目指します。なお、治療の効果が出るまでには約3カ月間かかるため、薬物療法も3~4カ月は継続して様子を見ます。

漢方薬について

一部の漢方薬は精液所見の改善に効果的とされていますが、効果について発表されている論文はサプリメントに関しての方が多く、実際に漢方が治療に使用されている地域も世界的に見れば限定的です。漢方薬をご希望の方は、ご相談ください。

手術方法と合併症

手術方法と合併症顕微鏡下で患側の鼠径部を2~3cmほど切開し、精索という血管やリンパ管などの束を体外に引き出します。そして、顕微鏡で静脈だけ(個人差はありますが10~15本)を分別して糸で結紮することで切断します。静脈だけを分別することで、精管や動脈、リンパ管については温存させることが可能です。
手術の所要時間は血管の数などにもよりますが90分程度で終わり、縫合時に体に溶け込む素材の糸を使用しますので、後々の抜糸は不要となります。
術後については、多少の痛みはありますが軽度です。デスクワークであれば仕事は可能ですし、通常の日常生活を送っていただくことは可能です。入浴については翌日からシャワーを浴びていただくことも可能です。なお、手術の合併症として、患部の出血、感染症への罹患、陰嚢水腫、静脈瘤の再発などがありますので、精巣が腫れたり傷から出血したりした場合はすぐに医師に相談するようにしてください。

精索静脈瘤の治療料金

術前検査費用 22,000円
予約金 33,000円
手術料金(片側) 209,000円

手術の適応について

精子の数が少ない、運動率が低い、前進率が悪い、正常形態率が低い精子DNA断片化率(DFI)が高いなどといった精液初見が悪い方、人工授精や体外受精などを行ってもなかなか妊娠につながらない方、サプリメントや漢方薬などの薬物療法でもなかなか精液所見が改善しない方、子供がたくさん欲しい方、このような方については、静脈瘤があることがマイナスに働いてしまうことがあります。したがって、根治的治療を目的として手術を行う方が望ましいでしょう。

よくある質問

精索静脈瘤とは何ですか?

血管(静脈)が拡張してできた瘤です。
精巣静脈の中には逆流を防ぐための弁が備わっていますが、この弁が何らかの原因で機能しなくなると、逆流が生じて精巣の静脈が蛇行・拡張し、瘤のような状態となります。このような状態を精索静脈瘤と言います。

瘤はなぜできるのですか?

精巣静脈の中には逆流を防ぐための弁が備わっていますが、この弁が何らかの原因で機能しなくなると、逆流が生じて精巣の静脈が蛇行・拡張し、瘤のような状態となります。

瘤はどんな人にできやすいですか?

一般男性の10~20%に認められ、男性不妊症の方のうち30~40%、二人目の子供の不妊で考えると40~80%の人に認められます。

男性不妊症との関係ありますか?

男性不妊症の原因の中で精索静脈瘤が最も多い原因と言われています。

診断どのように行いますか?

医師による触診や超音波検査を実施します。触診では左右で精巣の大きさが違う、精巣の頭側に触ると柔らかい瘤が触れることができます。超音波では血管の拡張を観察したり、血液の逆流を確認することができます。

手術の適応について教えてください。

不妊症の方であれば手術の検討は可能です。精子の数や運動率、正常形態率が低い、DNA断片化率(DFI)が高いなどの精液所見が悪い場合、人工授精がうまくいかない、体外受精や顕微授精で胚盤胞到達率が低い、流産を繰り返しているなどの場合には手術を検討します。

手術はどのように行いますか?

精巣に静脈の血液が逆流しないように、顕微鏡で観察しながら、血管を1本ずつ確認しながら、糸で縛り、静脈を切る手術を行います。

術後は入院を伴いますか?

日帰りの手術を行うため入院は不要です。

精子の状態は改善されますか?

治療の効果がわかるようになるには約3カ月かかると言われています。精子は精巣の中で74日間かけて作られ、14日間かけて射出されます。なお、治療をしたからといって必ずしも精子の状態が良くなるとは限りませんが、精子の数や運動率、精子DNA損傷率の低下などが期待できると報告されています。

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